京都府立医科大学 ワークライフバランス(WLB)支援センターみやこ

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米国医師の働き方を知る(北方敏敬先生を囲む座談会)

令和5年10月31日に、本学卒業生で2008年から米国で食道外科医として活躍されている北方敏敬先生を囲む座談会「日米医師の働き方の相違点を探る」を開催しました。日米医師の働き方の相違点を知ることができる大変貴重な座談会となりました。

北方 敏敬(ほっぽう としたか)先生(Clinical Associate Professor of Surgery, Division of Foregut Surgery, Drexel University College of Medicine, Esophageal Institute, Allegheny Health Network)
【プロフィール】
平成6年本学卒業し、本学小児外科入局。1999年に京都大学第二外科に移局。2005年に医学博士を取得して米国へ研究留学。2008年にアメリカ医師免許を取得し食道外科医としてGERD/LPRD(胃食道逆流症/咽喉頭逆流症)の外科治療の普及と発展を目指している。社団法人GERD・LPRD診療ネットワークの理事で、初代会長としてJapan Foregut Societyを立ち上げ、令和5年11月に東京で第一回研究会を開催した。米国外科学会のFellow of American College of Surgeons (FACS)も授与されている。

座談会の内容  

 北方先生    みやこメンバー 

①米国での医師の働き方について

日本では医師国家試験合格者の女性割合は3-4割ですが、女性医師の就業率にはM字カーブ(結婚や出産の年齢で就業率が低下すること)があります。また外科系や循環器内科などの女性医師の割合が低い現状があります。米国の現状はどうですか?

米国の女性医師の割合は35%で、外科医でも30%超が女性で、その割合は年々増えています。米国では女性だということで、診療科の選択にかたよりはあまりありません。米国医師の収入に関する調査2023 Physician Compensation Report(p9)では、診療科によって平均収入に何倍もの差があり、男女問わず高収入の診療科が人気です。高収入の診療科のポストには限りがあるので、医師国家試験の点数と面接でのアピールで採用が決定します。採用の際に性別によって不利になることはありません。

 日本では昔は女性医師割合が少なかったのですが、現在では34割が女性医師となったため、女性が働き続けられるような仕組みやサポートが必要になっています。米国での医師の働き方やサポート体制について教えてください。

米国と日本ではいろいろな仕組みが異なります。まずは医師のポジションです。医師になって3-7年目まで(科によって年数が異なる)がResident、その後サブスペシャリティーを目指すFellowになります。ResidentFellowはトレーニングを受ける立場です。Residentの勤務はハードですが、週80時間勤務までと決められており、residentの生活はかなりプロテクトされています。その代わり、fellowにはそういった時間的な制約はなく、むしろresidentよりもハードな勤務をしていると思います。Fellowの上のポジション(日本での助教以上)がStaffになります。

なるほど。米国では医学生が日本での初期研修医程度のトレーニングを受けているので、Residentの実力は日本での後期研修医(本学での専攻医)くらいになるのですね。実際の勤務時間はどのくらいですか?

 私の所属する食道外科では、Fellow3人、Staff5人います。我々のfellow達は、既に外科レジデンシーを終了した外科医です。米国では病院が始まるのが6時と早く、手術は7時半から15時くらいまでに集中して入っています。米国人のStaff7時半の少し前に出勤して15時くらいまでに数件の手術を終えたら、すぐに帰宅します。私はどうしても自分で回診をしたいので6時半くらいから回診をしてから手術場に向かい、15時頃に手術が終われば術後の患者さんを回診して帰宅します。日本のようにだらだらと病院に残っているということはありません。

外科のStaffは手術だけするのですね。術前術後の患者の対応は誰がするのですか?

 ResidentとFellow、それとPAPhysician Assistant)が患者の対応をします。

 PAとはどういう立場の方ですか?

 PAは大学で3年の専門課程を受けて国家資格を取得しています。基本的には8時から16時までの勤務で入退院管理、薬の処方、手術のIC、保険関係の書類作成、手術場では手洗いして手術の助手や縫合も行います。クリニックを開業することもできる資格です。看護師よりも医師に近い資格です。我々の施設では、スタッフ医師一人につき専属のPAがいます。PAがいることで、我々外科医は手術に集中できるのです。ResidentFellow6時には出勤して、回診や指示出しをします。術後のトラブルや入院患者の対応はまずはResidentが行い、困ったときはオンコールのFellowを呼びます。Fellowの手に負えない場合はStaffのオンコールになりますが、食道外科でStaffまで呼ばれることはほとんどありません。時間外(16時以降)や当直帯の担当はResidentで回しているので、Fellowは基本的には自宅待機であり、院内での当直はありません。我々のグループでは、fellowがファーストコールとなり、オンコールスタッフに指示を仰ぐことになります。

 会議はいつ行っていますか?

 カンファレンスは朝7時からで、その日は手術開始が8時からになります。手術が終わればそれぞれ帰宅するので、基本的には夕方の会議はありません。

 外来は何時からですか?

 外来は朝8時から16時までです。よっぽどのことがなければ、16時には外来スタッフは帰宅していきます。

 米国ではPAという職種の存在もあって、医師の仕事のタスクシフトが進んでいることがよくわかりました。それにしても、病院や手術開始が朝早いことに驚きました。出勤が6時半や7時半だとすると、子育て中の女性医師は子どもの登園や登校にどうやって対応しているのですか?

 夫や両親などがサポートしているか、ベビーシッターを利用しています。学校はたいていスクールバスで送迎してくれます。日本ではベビーシッターの利用は一般的ではないようですが、米国の医師は高収入なので、ベビーシッターやアウトソーシングにしっかり投資をして、自分は仕事をしっかり継続するという考え方が普通です。さらに朝のカンファレンスはコロナ禍でオンラインになったので、自宅から参加できるようになり、より便利になりました。

 確かに医師の収入が日本とかなり違うようですね。提示していただいた米国医師調査2023 Physician Compensation Report(p9)では脳神経外科や呼吸器外科Staffの平均年収が70万ドル以上(約1億円!)、一番少ない小児科でも22万ドル(約3300万円)ですね。物価も違うのかもしれませんが。

 米国では医師免許をとるまでの学費もかなりかかっています。4年制大学のあとにメディカルスクールに4年で計8年、学校にもよりますが年6-7万ドル(約1000万円)くらいの学費が必要です。卒業時に学生は数千万円の学生ローンを抱えていることが一般的です。Residentの年収は6万ドル(約900万円)くらい、Fellowの年収は10万ドル(約1500万円)くらいなので、彼らは少しでも早くStaffになりたいと思って、必死でトレーニングしています。ちなみにPAは年収10万ドル(約1500万円)くらいあるので、とても人気の職種です。

 PAは18時間勤務で年収約1500万円ですか!日本でのクラークやドクターズアシスタントは特に資格は必要ないので、給与は低く、募集してもなかなか枠が埋まらない状況です。PAと名称は似ていますが、役割はまったく異なっていますね。PAは、日本のNP(ナース・プラクティショナー、診療看護師)に近いのかもしれませんね。どうして米国では医療関係者の年収が高いのでしょうか。

 ひとつには、米国は国民皆保険ではなく、プライベートの保険なので医療費がとても高く設定されているからだと思います。DPC制度などはまったく考えられません。一泊の入院で何十万円(場合によると100万円以上)とかかるので、手術の前日の入院なんてありえません。朝6時に入院して当日7時半から手術開始、というのが普通です。在院日数もとても短いです。特に最近は、かなり大きな手術をしても当日退院の傾向が強くなっています。

 手術当日早朝の入院ですか。患者さんにとっては、どちらがいいのかはなんとも言えないですね。

 米国では医療とはそういうものだとみんなが思っているので特に不満も聞きませんね。

②ワークライフバランスの意識について

 ワークライフバランスの意識は日本と異なりますか?日本では上司や同僚の理解があるかどうかで、子どもの運動会・入学式・卒業式などの学校行事での休みやすさに、まだまだ違いがあります。

 米国ではワークライフバランスは古くから当然のこととして求められています。なによりも family-oriented で、子どもが熱を出して休暇を取ることはもちろんのこと、飼い犬の病気を理由に休むことも普通です。

 休暇をとった場合、代理の仕組みはどのようになっているのですか?

 米国では日本の医局のように人事権をもつ教授をトップとしたグループで医療をしていません。Staffはそれぞれが独立して病院と契約していて、自分が行った手術の数で報酬が決まってきます。例えていうなら、Staffそれぞれが日本の開業医のようなものかもしれません。契約書上、一年間に必要な点数に基づいて報酬が設定されており、それよりも高い点数だとincentiveが付き、低いと年間の報酬が減らされます。一年間に必要な点数さえクリアすれば、そのスケジュールや休みを自分でマネジメントできるところがアメリカらしいと思います。だから、休暇をとって手術をしなければ自分の実績(点数)が減るだけであり、他の医師に気を遣うことはまったくありません。年間に取れる有給休暇に加え、CME(日本での生涯教育の点数)獲得のための学会やレクチャーへの参加、有給での病欠などが規定されており、アメリカ人はそういった規定された休暇は完全消化することを当然の権利と考えています。

 日本とはそのあたりの仕組みもかなり異なっているのですね。ところで、外科医が15時に仕事が終わって、その後はどのように過ごしているのですか?

 日本のように仕事のあとに同僚と飲みに行くということはほとんどありません。帰宅して18時頃に家庭で夕食を食べて、21時か22時には就寝します。職場の人たちと食事を食べるのは、holiday party(クリスマスなど)やResidentFellowの卒業式など特別な機会だけです。なによりも家族との時間を大切にしています。

 女性医師は出産前後の休業をどれくらい取得していますか?

 年齢的にはResidentからFellowの頃に妊娠出産となることが多いようです。当科の女性医師の1人はResident5年間で3回出産し、それぞれ6-12週間産後休業を取得して復帰しています。米国外科医協会では両親の一方または両方が産後少なくとも6週間の休業を取得することをつよく推奨し、母乳育児の場合は復帰後に搾乳に関わる時間を確保すること、出産することによって就業上の一切の差別をしてはいけないなどと文書で制定しています。(The American College of Surgeons:Statement on the Importance of Pregnancy, Parental Leave, and Workplace Accommodations for Surgical Residents and Fellows)

③研究・教育について

 大学病院での研究や教育はどういう仕組みになっていますか?

 研究を専門として行っているStaffが別にいるので、年間に何本かの論文発表が必要なFellowResidentは彼らの指導のもとで研究をしています。研究と臨床とが分業化されており、われわれ臨床医は研究のアイデアとデータを提供し、研究者はそれらをまとめて発表し、論文を量産しています。米国では臨床医が基礎的な研究を行うことはとても珍しいです。医学生への教育に関しては大学によって異なりますが、現在我々の病院ではStaffに医学生への講義などのdutyはありません。ただ、医学生が臨床研修でローテーションしてきた時には、一般的にはResidentFellowと行動を共にしており、Staffのみならずresidentfellowからも教育を受けることになります。

 やはりそうですか。日本の大学病院の医師が、臨床も研究も教育もして、かつ大学からの報酬が低いため、外病院でのアルバイトをしなければ生活できないというのは、どう考えても持続性がある働き方とは言えませんね。しかも、20244月からの医師の働き方改革実施によって、外病院でのアルバイトまで制限を受けることになるかもしれません(ため息)。
北方先生、米国の医療制度や働き方、そしてワークライフバランスの意識について大変わかりやすく教えていただき、ありがとうございました。

 【まとめ】
日本と米国では医療制度が異なるので、一概に比較することはできませんが、米国では医療の分業が徹底していて(Staff, Fellow, Resident, Physician Assistantなど)、その仕事に見合った報酬が保証されていることがよくわかりました。
米国は昔からPrivateを大切にする社会で、勤務時間内に仕事を終わって後は自分の時間(家族との時間)を過ごすのが当然という考え方ですが、日本のマインドが変わるのには時間が必要でしょう。また女性がprofessional に働くために 家族の協力とベビーシッター、お手伝いなどのアウトソーシングに投資することが必要という考え方も参考になります。
令和5年8-10月に ”WLB支援センターみやこ”と”病院の働き方改革チーム”とで行った「本学医師・歯科医師の働き方とワークライフバランスに関する意識調査」の結果も踏まえて、今後の働き方の改善につなげたいと思います。